世の中というのは厳密に言うと

世の中というのは厳密に言うと、今イライラしている人と、そうでない人に分けられる。もれなく、である。

最近の俺はイライラしている。本当に自分勝手な人たちばっかりなのだ。そんなんばっかしなのだ。で、えっ、何、そりゃあまあ、俺もたいがい自分勝手ではあるけれども、「筋」のことは考える（つもりだ）ぞ、いや、今のこの話はそうじゃなくて、まあちょっと聞けって、酷いんだから、そう何ていうか、その、他人の自分勝手の皺寄せが、一気に俺のところに押し寄せた感じだったわけ。不動産屋の話と、あと言えない話と、言っちゃいけない話と、もう一つ言えない話。どう、イライラするだろう？

でまあ、いくつかそういうことがあった上で、今朝もうひとつ。

一人でいたジムのサウナに、中国人のおっさんが入ってきた。ときどき会うおっさんだ。

そのおっさん、何を始めたかというと、サウナの中でムシャムシャとリンゴを食い始めたのだ。そしてペットボトルの水をグビグビ飲む。その音がまた酷い。マナーを弁えた大人のそれではないのだ。それに、何と言っても公共のサウナの中で物くっちゃだめだろう。そんなの常識じゃないの？と思う俺のほうが非常識なのか？

俺は蓄積したイライラの上にぐいぐい乗ってきた新たなイライラにイライラしているおれ自身に、「冷静に、冷静に、おい俺、冷静に」って言い聞かせながら、「あと３分じゃないか、３分だけの我慢だ」と思い込もうとしていた………ら、

ぶぅーーーーーーっ、ぶびっ、ぶっ、ぶびび。

とおっさんは切れの悪い『屁』までこいたのだ。

ええええええええええええええええええええええええええええっ、って思うじゃん。密室だぞ、サウナは。空気漏れない超密室。

くちゃぺちゃむしゃとぐびぐびと、不快な音を小部屋に反響させて俺の聴覚を攻撃したあとは、とどめを刺すように屁だよ、屁。その切れが悪くてそこがまたイラッとくる。そしてそれは対流に乗って俺の嗅覚にも襲い掛かる。

さすがに密室で他人の、しかもどこの誰とも知らんおっさんのウンチの寝床である大腸にそれまで潜んでいた臭いのきつい分子を、両方の鼻の穴から吸い込む趣味は欠片ももってないので、あんぐり開けた口から空気を吸い込まないようにして、ゆっくり部屋を出た。

「そんなにあからさまに部屋を出たら、屁をしたおっさんがかわいそうだろう。出物腫れ物ところ構わずなんだから、我慢してそこに居るのがエチケットだぞ」と仰る方。ごもっともです。

「屁をかぐかかがないかで、お前の人物を試してたんだ。なんて小さい男なんだ、おまえは。他人の肛門から解き放たれた分子がなんだ、吸え、吸えよ、採り入れろよ、お前の体内に！！」と仰る方、ごもっともです。

「お前の屁だってフローラルの香りってわけじゃないんだから、彼が昨日からなにを食ってたか当てるくらいのつもりで鼻をもってけ。そしてジャスミンの香りだったら報告しろ」意味が分かりません。

「どうやらおまえは耳もきわめて達者だし、鼻もびんびん使えるようだな。お前が人間ドックに入らないから、新手の診察だ、診察。２０歳以下の者にしか聴こえない、匂えないものだったが、お前はまだ十分若い。」あ、そうなんですか。

「お前がイケイケのミュージシャンじゃないことが判明したよ。ミュージシャンなら、くちゃぺちゃむしゃとぐびぐびとぶぅーーーーーーっ、ぶびっ、ぶっ、ぶびびがあれば、次のメロディをゲップかいびきで奏でるはずだろう。つまんないやつだ。もしくはお前も屁で繋いで、逆に相手に次を促すくらいやるべきじゃないか。」はあ、すいません、ミュージシャンじゃないもんで…つい。

「そもそもなんでそんな朝っぱらからジムなんか行ってるんだ！　そんな暇があったら働け、働け！　草を食って働け！！」　いやあ、それはちょっと…。

俺のイライラ度はお分かりいただけただろうか…。

吐き出した感、ある。

さて、そんな俺ではあるが、ランチでCOLOTAKOさんのお好み焼き（チキン）を食べたら、体中に渦巻いていたイライラがスーーーーッと和らいだ。瞬く間である。魔法のお好み焼きだ。今日のは一際旨かった。うん、旨かった。作ってくれた人に握手しにいきたい。

展覧会前で作品作ってるのに、イライラするなんて本来もってのほか。

嫌なこととは真逆、もしくは反対の極くらい離れたところにいなくちゃいけないのだ。

芸術家はデリケートなのである。バリケードでもビリヤードでも、チョコミントでもない。そうだね、うん、「ト」しかあってない。

というわけで、今の俺は「今イライラしてる人」には入らない。

今日明日イライラする予定の人、

チャツウッドのモールでＣＯＬＯＴＡＫＯさんが待っている！