ツワモノ

強い者、と書いて「ツワモノ」。

世の中には一際群を抜いて秀でた者がいて、それは「一般」や「常識」には当てはまらない、「例外」と言える。

(一気に書いたが、長いし、品のランクも下の方なので、良い子はここで読むのを止めておくのがよかろう)

書道教室のあるフロアのトイレには「使用後は水をながせ」という紙が貼ってある。

水洗トイレなら至極真っ当な主張であると考えて大筋で間違ってはいない。

「大筋で」というのは、この張り紙を作った人間が、

「レバーを引けば「ウ○チ」が流れる」と思っている節があるためだ。

それが「一般的」であり「常識」だろうと。

はあーっ(溜息)。甘い。

「海外に出てもとりあえずなんとかなるだろう」と東京の部屋を引き払って渡豪したときの俺の考えとどっこいどっこいくらいに甘い。蜂蜜をかけたチョコレートパフェにイチゴジャムをトッピングした感じ、と言えば分かりやすいのか、わかりにくいのか、オレは知らん。

月曜の朝、トイレ(個室)に入ったオレは、ズドッをいう擬音を纏ったヤツを発見。一言で形容すればガメラよりゴジラ。

前の者の置き土産だ。

まあ、ここまでは日常茶飯事。1日に4,5回はあることだ。気にしない、気にしない。

レバーを引いて水を流す。ジャーッ。ゴゴゴーっ。快音と共に水が渦を巻き、穴に吸い込まれる。

「よし」と思って、オレも戦闘態勢に入るべくくるりと振り返…「えっ」右目の端がゴジラを捉える。

何―っ!!! 全く動いてない。微動だにしていない。まじか。

負けないと思っていた相手に不意打ちを食らわされたような気持ちで、多少の敗北感に頬を舐められながら、オレは再びレバーを引く。今度は意識的にちょっと長めに引く。音とともに水の渦が穴に吸い込まれる。

ぐぐぐぐっ。 思わず身構える。 全くダメージがないのだ。

セルと戦うミスターサタン… 頭を過ぎる。

自棄になって何度も何度もレバーを引く。その度にオレの気持ちだけが打ちのめされる。

自分の無力を思い知らされ、ただただ惨めさばかりが募る。

貼り紙が視覚に入る。読んでムカっとくる。

「流れねえんだよ!」

オレは体を起こして一つ溜息をつく。鼻がバカになっててヤツの臭いも分からない。

割と諦めが悪い方で、やりかけた事は最後まで、もしくは見通しが立つまではやる質なのだが、

今回ばかりはお手上げだ。オレの方も早く出たいと呼んでいる。

完全に諦めて隣の個室に移動。

それから何度かトイレに行きその度に個室を覗いてみたが、

くっきり、はっきり、鎮座したままだ。

薄ら笑いを浮かべてオレを見ているような気がする。

すると沸々と怒りが湧いてきた。

そして、朝、これに手を出してはだめだと避けていた「便器掃除ブラシ」を手にしてしまう。

自分のではない、自分の身内のモノでもない、全く他人のウ○チを棒でつつく… そんな行為、下手をすれば法律に触れるかもしれない。良心がダメだといっている。しかし、それも敗北感への怒りには勝てなかった。

オレは手にしたブラシでヤツをつついた。かなり重い。便器に粘着してしまっている。これでは流れない。オレはブラシの先に力を込め、ヤツと便器を引き剥がした。ヤツが溜まった水の中でユラリと揺れる。

「勝った!」とオレは思った。そしてブラシを持っていない方の手でレバーを引く。ジャーーーっという水の音、水の渦、そしてそれらが穴に吸い込まれる。やった、勝った。ヤツの姿も消えた。ざまーみろ、バーカ、バーカ。いつまでもオレに勝てると思うなよ。

と、思い終わらぬうちに、揺り戻しで戻ってきたヤツの一端が顔を覗かせた。

その表情は完全にオレを嘲笑っていた。

これが死闘とも言えるヤツとの闘いの一部始終だ。

しかしヤツも昨日の朝には消えていた。夜、清掃業者のお兄ちゃんが孤軍奮闘した姿が目に浮かぶ。

「自己責任で流せって言ってんだろ、クソ野郎!」 うーん、文字通りクソ野郎だ。

平和を守るには戦いが必要なときもある。

日本国憲法ではヤツには勝てないのだ。

と、今日の午後、目を疑うような衝撃的な出来事がっ!!!

そう、トイレにまたヤツの姿があったのだ!!!!!

なぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

 

このフロアで働いている男の誰か、

しかも割とここ最近働き始めた男。

『ツワモノ製造機』

オレは男をそう呼ぶだろう。

RENCLUB/Ren Yano

REN Yano -Japanese Calligrapher gained Australian PR as an artist. In 2010 his work 'place of origin' became a national property of JPN. Also he was conferred Consul-General's Commendation on in 2016.

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