4月になって新しく男の子がお稽古に通ってくるようになった。
子供のころの俺とどちらが生意気かと言えば、方向が異なるだけでレベルはそう大して変わらないと言えばみんなに分かりやすいのか分かりにくいのか。
ああ言えばこう言う、ああ言わなくてもこう言う。
ああしろと言うとこうする、ああしろと言わなくてもこうする。
まあ子供とはそういう生き物だ。
(たまに大人にもそういう生き物がいるが…ん?たまに、か?たまにしかいないか? いやいやいやいや、そうでもないな、それ、俺か?)
そんな対決(=お稽古)を子供とは楽しむ?!ことが多い。
さて昨日のお稽古。その新参の男の子とさんざんああだこうだあった挙句に、あんな漢字が書ける、こんな漢字が書けるなどという自慢が始まる。
多少うんざりしつつも「そんなに頭がよくて将来何になりたいの?」と何気なく聞いてみる。
「習字の先生」
なにーーーーーーーーーっ。
「思いもよらぬ」とはまさにこのこと、というのはまさにこのこと。
そんな言葉が彼の口をつくなど考えもしない。
心の声の「え゛~~~~~~~っ」が止まらない。漏れてはいないと思うけど、漏れててもおかしくないほどだ。
習字の先生になりたいなどと俺の前で言った生徒はこれまでに一人もいない。学校の先生になりたいと言った生徒もいない。大人になりたいと言った生徒もいないし、独身でいたいといった生徒もいない。
それなのに、それなのに、それなのに、まだついこの間稽古を始めたばかりのこの子がそんなカワイイことを言ってくれるなんて…。
ああ、響く子には響くのだ。
長くやっていたらこういう子にも出会うことができる。
思えば、俺も当時通っていた書道塾の先生を見て書の道に進もうと決めたのだった。文化はこうして下の世代に受け継がれ、歴史は脈々と続くもの。
できれば東京学芸大学に進んで、書道を学んでほしい。
…と感動の空気に身を任せていた俺の耳の鼓膜が揺れた。
「だって楽そうだから」
おい、俺の感動を返せ。
この心の声は完全に口から洩れてしまった。
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